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実  験



 収着媒としては、不純物である鉄が100ppm以下のナトリウムモルデナイトを使用した。モルデナイトはゼオライトの一種で、c軸方向にまっすぐに伸びた、径約0.7nmの細孔を持つ。図1(a)はモルデナイトの細孔構造の模式図、図1(b)はc軸方向から見た骨格構造である。

図1

図1 モルデナイトの構造
(a) 細孔構造の模式図、(b) 骨格構造のc軸投影図


 水素は通常はo-H2とp-H2の混合物である。p-H2は回転量子数が偶数の軌道に、o-H2は回転量子数が奇数の軌道に対応するが、常温では高いエネルギーの軌道まで分布しているので、回転のエネルギー準位の総数には差がない。一方核スピンのエネルギー準位は、p-H2に縮重がないのに対してo-H2は3重に縮重している。その結果、常温で平衡状態にある水素では、o-H2とp-H2の存在比は3:1である。本研究ではこのような水素をn-H2として使用する。これに対して100K以下の低温では、o-H2は回転量子数J=1の軌道を、p-H2はJ=0の軌道のみを占める。J=1の軌道の縮重度は3、J=0の軌道の縮重度は1であるから、o-H2の占めることができるエネルギー準位は9個、p-H2の占めることができるエネルギー準位は1個である。回転準位そのもののエネルギー値は当然J=0の軌道の方が低いので、このエネルギー値と縮重度との関係により、低温で平衡状態にあるo-H2とp-H2の存在比はほぼ1:1となる。しかし、o-H2とp-H2の変換反応は通常は非常に遅いので、単にn-H2を冷却しただけではo-H2とp-H2の比は3:1のままである。そこで、p-H2の吸着力がo-H2よりも低いことを利用して、以下のような方法でp-H2の割合を特に多くした水素(p-r-H2)を調製した。
 モレキュラーシーブス4Aを400℃で1時間加熱処理し、約1mのパイレックスガラス製カラムに入れて液化窒素で冷却する。この中にn-H2を通じ、初めに脱離してくるガスを約500mlの容器の中に20torrになるまで集めた後、水素を止め、カラムを室温に戻して充分に真空排気する。再び同じ操作でさらに20torrの水素を集める。このような操作を十数回くり返すことによって、p-H2とo-H2の比が10:1程度のp-r-H2を必要量得ることができた。
 水素の組成の分析はガスクロマトグラフで行なった(日立製063型)。カラムはパイレックスガラス製(内径3mm、長さ3m)で、カラム充填材は32〜65メッシュの活性アルミナを水蒸気に一昼夜触れさせて一度不活性化した後、ヘリウム気流中で1時間、150℃に加熱したものを使用した。このカラムは液化窒素で冷却し、この後ろにさらに400℃に保った酸化銅カラム(パイレックスガラス製、内径6mm、長さ60cm)をつなぎ、ここで水素を水蒸気に変えた後、熱伝導度型検出器で検出した。キャリアーガスとしてはヘリウムを用い、圧力1.5atm、流速0.8mlSTP/sとした。また測定する水素は、0.1〜0.2mlSTPを容量約10mlのガスサンプラーに取り出して、ヘリウムの流れに入れるようにした。水素の圧力の測定はMKS Baratron社製圧力トランスデューサーを用いて行なった。測定系の概略図を図2に示す。

図2

図2 測定装置の概略図





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