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緒  言



 軽水素の分子には、2個の原子核のスピンが平行なオルト水素(o-H2)と逆平行のパラ水素(p-H2)がある。水素分子はフェルミ粒子であり、全波動関数が核の交換に対して逆符号になるという要請から、回転の波動関数が偶関数の場合には核スピンの波動関数が奇関数のp-H2が、回転の波動関数が奇関数の場合には核スピンの波動関数が偶関数のo-H2が対応しなければならない。従って、回転量子数Jが偶数の軌道にはp-H2、Jが奇数の軌道にはo-H2が入ることになる。特に100K以下の低温では、p-H2はJ=0の軌道のみを、o-H2はJ=1の軌道のみを占めている。
 この核スピン異性体の低温に於ける吸着現象については、1954年〜1966年の間に既に多くの研究が行なわれて来ている1-11)。これらの研究によってo-H2はp-H2よりも強く吸着されることが確かめられ5)、従って2種類の水素はガスクロマトグラフの手法で分離できるということがわかっている12)。このような吸着力の差が生じるのは、吸着された分子の回転が強く束縛されて、J=0の軌道とJ=1の軌道のエネルギー準位が変化するためであるが、この束縛回転を起こす主な要因が何であるかはまだはっきりしていない。Evettらは吸着媒と吸着分子の間のファンデルワールス力の影響で水素分子が表面に対して水平に配向しているモデルを考えたが7),8)、これだけでは吸着の性質を充分に説明したとは言えない。これに対してKingとBensonは、吸着媒による静電場と誘起双極子の相互作用を考慮に入れて水素分子が表面に垂直に配向しているモデルをつくり、このモデルによって吸着力の差を説明した11)。しかし、この作用と同様に四重極子と静電場の勾配との相互作用も重要になってくる、ということが指摘されている13),14)。そこで今回の研究では、水素をナトリウムモルデナイトに収着させ、その収着熱や収着分離係数などを求めて束縛回転の要因を明らかにすることを目的とした。



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