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付記3.a-Siの膜厚測定法及びその原理



測定方法

 ガラス、或いは石英の板(厚さは1mm以下がよい)の上に、実際に試料を作製するのと同じ条件でa-Si膜を作る。これを分光計にかけ、近赤外領域の透過スペクトルを測定する(900〜2000nm が適当。理由は後述)。こうして得られたスペクトルには、図Gのような干渉パターンが現れる1),2)。そのパターンから、透過率極大の位置の波長(λmax)と、極小の位置の波長(λmin)を読み取る。横軸に λmax、λmin に対応する点を交互に等間隔にとり、縦軸に、1/λ をとってプロットすると、図Hのような直線が得られる。この直線を延長して横軸と交わるところを max(0) とする(この位置は、横軸にとった max、min の繰り返しを延長すると、必ず max の位置に当たる)。max(0) から右へ順に max の位置に、max(1)、max(2)、max(3) ・・・ と番号を付ける。max(2) の位置の λ の値をグラフより読み取り(この位置に実際の測定点がある場合も、ない場合もある)、その値を λmax(2) とすると、次の式から膜厚が求められる。
   d = λmax(2) / n
ここで、d は膜厚、n はa-Siの屈折率(約3.5)である。

図G

図G a-Si膜厚決定に用いる干渉パターン




図H

図H λmax(2)の求め方


 n の値は基板表面、a-Si表面共に十分に平坦である場合、次のようにして、同じスペクトルから求めることができる。
 極大透過率を Tmax、極小透過率を Tmin とすると、平均透過率 Tav は、
   Tav = ( Tmax × Tmin )1/2
で与えられる。ここで、次のような値 Z を定義する。
   Z = { 2 / ( 1 + ns )}3 × ns2 / Tav
ここで、ns は基板の屈折率(パイレックスガラス 1.50, 石英 1.45, 水晶 1.54)である。a-Siの屈折率は次式で与えられる。
   n = Z + ( Z2 - ns )1/2


原 理1)

 透明基板に付着したa-Si膜に光が入射した場合、a-Si表面で反射した光と、a-Si/基板界面で反射した光とが干渉を起こす。その干渉の状態はa-Siの膜厚と光の波長とによって変化し、二つの反射光が強め合った場合は透過光は極小になり、弱め合った場合には透過光は極大になる。その様子を図Iに示す。(実際にはa-Si中では光の波長は短くなるが、図では簡単にするために空気中と同じに描いている)

図I

図I 干渉のモデル図


反射光の位相は、第二媒質の屈折率が第一媒質の屈折率より大きい場合は逆転(180°ずれる)し、小さい場合はそのままであるから、a-Si表面では逆転し、a-Si/基板界面では逆転しない。図から明らかなように、 λmax(1) はa-Siの厚さがちょうど1/2波長になった場合に相当し、 λmax(2)、 λmax(3) ・・・ は、それぞれ 2/2波長、3/2波長 ・・・ に相当する。従って、膜厚が一定の場合は、光の波長が膜厚の 4/2倍、4/4倍、4/6倍、4/8倍 ・・・ のところに極大が現れる。同様に極小は、4/1倍、4/3倍、4/5倍、4/7倍 ・・・ のところに現れることになる。その結果、max、min に対応する 1/λ の値は等間隔に並び、図Hのような直線となる。また、max(0) は、分母が0、即ち 1/λ = 0 に相当するので、横軸上に来ることがわかる。以上のことから、λmax(2) がちょうどa-Si膜の厚さに相当することは明らかである。ただし、実際にはa-Si中では光の波長はその屈折率分だけ短くなっているので、膜厚としては λmax(2) を屈折率で割った値をとらねばならない。
 膜厚 約500nm のa-Si膜を調べる場合には、n = 3.5 とすると、3500nm よりも長波長の光だけでは役に立たない。膜厚 500nm のa-Siは、空気中では 1750nm に相当し、また図Hのようなグラフを得るには最低でも λmax(1) と λmin(1) とが必要で、そのためには膜厚(空気中換算)の2倍の波長以下の光がなければならないからである。正確な測定をするためにはさらに短波長の光が必要なのは当然である。一方、a-Siはバンドギャップが約1.7eVであるから、700〜800nm 以下の光は吸収してしまう。従って測定波長は、初めに述べたように、900〜2000nm が適当であることになる。


参考文献

1)早川宗八郎, "物質と光(理工学基礎講座 24)", p.13, 朝倉書店 (1976)
2)L.M.Peter, Surf. Sci., 101, 162 (1980)



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