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付記4.電気化学測定用の装置及び測定方法



 測定装置の概略は図2に示すとおりであるので、ここでは個々の測定用器具について説明し、その後、測定の具体的な方法を述べることにする。1-4)


測定用器具

1.電気化学セル用容器
 容量約75mlのパイレックスガラス製。ほぼ円柱形で、側面に直径25mmのパイレックスガラス製の窓があり、ここから光を入れる。マグネティックスターラーにより攪拌できる。

2.白金対極
 1cm×1cm×0.5mmの白金板に径0.5mmの白金線を付けたもの。白金線に銅線をつなぎ、ガラス管に通し、銅線が液に触れないようにガラス管の先端をエポキシ樹脂で覆う。

3.飽和カロメル参照電極
 これは以下のようにして自作できる3)。まず初めに塩化カリウムを精製する。試薬特級のKClを二回再結晶し、これを0℃の水に飽和するまで溶かす。濃塩酸に濃硫酸を滴下して発生させたHClガスを、一度、濃硫酸中に通して乾燥させた後、KCl飽和水溶液中に吹き込んで、KClの結晶を沈澱させる。こうして得られたKClをろ過するが、この時、空気中の鉄分がKCl中に染み込んでいる塩酸に溶け込むおそれがあるので、密閉ろ過を行なう。それには、図J-aのように器具を組み、吸引ろ過するとよい。得られた結晶は少量の純水で、次いでエタノールで洗浄し、120℃の恒温槽中で乾燥させる。これをさらに200℃で真空引きし、吸着不純物を取り除く(この操作の代わりに、石英或いは白金皿で、大気圧下、650℃に加熱してもよい)。

図J.gif


 パイレックスガラスで図J-bのようなものを作り、先端に蒸留した水銀を入れる。試薬特級の甘汞を数滴の水銀と乳鉢(メノウがよい)中で練り合わせ、甘汞中に水銀が分散して全体が一様な灰色になるようにする。これに1〜2mlのKCl飽和水溶液を加えてデカンテーションを行なう。デカンテーションはKCl水溶液を新たに加えて3回繰り返す。この操作で、甘汞中に含まれる微量の昇汞が甘汞に変わる。甘汞+水銀のペーストを、先の水銀の上に、2〜3mmの厚さに 載せる。この上に、50℃で飽和したKCl水溶液を入れ、白金線を封入したガラス管を、白金部分が底の水銀中に完全に隠れるように入れる。このガラス管に少量の水銀を入れ、その水銀に先端が浸るように銅線を挿入する。こうして作製した電極は、一週間程度静置して安定させる。
 塩橋は寒天橋とする。飽和KCl水溶液50mlに寒天粉末2gを加え、水浴上で溶解させる。径3〜5mmのガラス管で図J-bのようなU字管を作り(先端は毛細管)、この中に寒天を吸い込み、先端を寒天中に浸したまま放冷して固める(外に出して冷やすと、収縮のために両端が空く)。これをカロメル電極に取り付け、外に出ている毛細管(ルギン管と呼ぶ)は飽和KCl水溶液に浸しておく。

4.直流電源
 0〜50V安定化電源を使用する。回路図を図Kに示す。

図K.gif


使用可能電圧は0〜20V、使用可能電流0〜50mA。これ以上の電流を流すと、パワートランジスタの過熱が激しい。電圧は正面パネル左側のツマミで自由に変えられる。右のツマミは中央付近に固定しておく。緑色のLEDは通常はほとんど発光していない。これがはっきり点灯した場合は正常作動範囲を超えているので、電圧を下げる必要がある。正常に作動している範囲内では、リプル(電圧の変動)は100μV以下である。

5.電位差計用電源
 5V定電圧電源を使用する。回路図を図Lに示す。

図L


 三端子レギュレーターを使用しているだけであるので、電圧の安定性は4に示したものよりやや劣るが、大電流に耐え得る。調節用の可変抵抗は外部の回路に直列にはいってくるので、電圧変化の直線性は悪いが、今回の使用目的には十分である。

6.手動式ポテンシオスタット
 回路図を図Mに、また正面パネルの略図を図Nに示す。両図中の番号は対比させてある。

図M



図N


 (5)の電圧計配置切り換えスイッチは、電流と電圧を同時に測定する場合に、測定器の抵抗が理想的でない(電流計の抵抗が0ではなく、電圧計の抵抗が無限大でない)ことによる誤差を最小限に抑えるためのもので、今回使用した各計器の場合、(14)のセル端子間の抵抗が30kΩ以下の場合はL側、30kΩ以上の場合はH側にすれば、誤差を常に0.4%以下に抑えられる(測定対象の抵抗が電流計の抵抗と比較し得るほどに小さい場合には、電圧計を電流計の前に(測定対象側に)入れ、測定対象の抵抗が電圧計の抵抗に比較し得るほどに大きい場合には、電流計を前に入れるのが、このような電気測定の原則である)。しかし、電流か電圧のどちらか一方のみを正確に測定する必要がある場合には、それに応じた配置にする(電流の場合はH側、電圧の場合はL側にすればよい)。その他の端子、ツマミ等については後に述べる。

7.光源
 光照射用光源の光学系を図Oに示す。

図O


 電球、レンズ等は冷却水と冷却ファンによって、使用中は常に冷却されるようにする。絞りは、径3mmから18mmまで、6種類あり、3mmと5mmの中間にしておけば完全に閉じた状態になる。電球、反射鏡、レンズには直接手を触れてはならない(電球は非常に高温になるので、特に油等を付けないように注意を要する)。
 この光源の光強度スペクトルを図Pに示す。

図P


これは検出器(浜松ホトニクス 8BKフォトダイオード)の感度を補正した後の値である。今回使用した有色の溶液 Fe(III/II) は、このピーク波長附近の光はほとんど100%透過し、BQ溶液でも80〜90%は透過するので、その意味では適した光源であるといえる。これに透過率のわかっている干渉フィルターをかけ、その光強度を求めて、この光源の全エネルギーを大まかに見積もると、約50mWcm-2 という値が得られる。これは、太陽光の1/2〜1/3の強度である(太陽光は約100mWcm-2)。

 その他の計器類はすべて市販のものである。


測定方法

 各器具の配線を具体的に示したのが図Qである。

図Q


標準電池は島津製作所製 MODEL CSC、検流計は同じく島津製作所製G-41型を用いた。ポテンシオスタットの各切り換えスイッチは、この配線方法では次のような働きをする。1) 電流切り換えスイッチ:正側ではa-Si電極が負、白金電極が正になるように電圧が印加され、逆側ではその逆になる。 2) 電気メーター配置切り換えスイッチ:前に述べた通り。通常の電流-電位曲線の測定ではH側にする。 3) 電位差計用電位切り換えスイッチ:正側ではa-Si電極が参照電極よりも負の電位の時に電位差が測定でき、逆側ではその逆である。 また電圧計の表示は、白金極が正の時に+となり、電流計の表示は、カソード方向に電流が流れた時+となる。
 まず初めに、測定セル容器に溶液を入れ、回路を開いた状態で3本の電極を入れる。暗箱をかぶせた後、a-Si極と白金極を電流計を通して短絡し、約3時間放置して安定させる。電源切り換えスイッチを正側に、電気メーター配置切り換えスイッチをH側に、電位差計用電位切り換えスイッチを溶液に応じた位置にし、参照電極との電位差を測定する(平衡電位)。次いで外部電圧を印加し、電位と電流を測定する。この時、電位設定後、電流が十分安定した後に、その値を読み取るようにする。電流の変動に伴って電位も変化する場合が多いので注意を要する。また、電極表面の吸着ガス等の影響で、初めのうちは再現性が得られないことが多い。電気抵抗はフラットバンド電位に達するまでは、a-Si極の方が白金極よりも圧倒的に大きく、そのため外部電圧による分極はほとんどa-Si極にかかる。即ち、電位変化はa-Si極のみで起こり、白金極は平衡電位からあまり動かない。ところが、フラットバンド電位附近からa-Siの抵抗が下がり、白金極の電位も正側に動くようになる。この様子は、電圧計に表示される外部電圧(この値には電流計による電圧降下分も含まれているので、正確に両極間の電圧を示しているわけではない)と、a-Si極の電位とから調べることができる。
 電源切り換えスイッチを逆側にすると、a-Si極が正極になり、電極の溶解が起こるので、特にその溶解を追う場合を除いて、逆側にはしないようにする。光照射下でも同様にして電流-電位曲線が測定できる。
 光照射下の開放電圧を測定する場合は、測定セル端子の+側のチップ(白金極につながっているもの)を参照電極端子につなぎ換え、電位差計用電位切り換えスイッチを正側にして、電位差計で直接読み取る。
 その他、測定において注意すべき点を挙げておく。

・外部電圧が1.2〜1.3Vに達すると水の分解が問題になり始めるので、通常の電流-電位曲線の測定では1.1V程度までにする。
・電圧計、電流計のレンジを変えると、計器の内部抵抗が変化し、誤差の原因となることがあるので、レンジはなるべく固定する。通常、電圧計はDC2V、電流計はDC200μAで行なう。レンジを変えたときには、電位を厳重にチェックする。
・電位差計は必ず測定前に調整する。測定中も必要に応じて確認する。
・参照電極の塩橋は時々取り替える(1ヶ月に一度程度)。
・光照射を行なう場合、電球の冷却を必ず行なう。
・a-Siと白金が短絡している場合、光の遮断に注意する。
・その他、標準電池、検流計等、計器の扱いに注意する。


参考文献

1)坪村 宏, "光電気化学とエネルギー変換", 東京化学同人 (1980)
2)田村秀雄, 松田好晴, "現代電気化学", 培風館 (1977)
3)田中正三郎, "電気化学実験法", 内田老鶴圃新社 (1957)
4)「物性」編集委員会, "「物性」実験技術シリーズ II、半導体の基礎技術", 槇書店 (1966)



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