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付記5.微結晶シリコンの電極挙動



 アモルファスシリコンと同様のシランのグロー放電分解により、微結晶シリコン(μc-Si)を作製することができる。これは、末端を水素で囲まれた60〜200Åの微結晶シリコンが、アモルファス状態の中に散在しているもので、一般の焼結体のような多結晶体とは全く異なる。バンドギャップはa-Siと変わらず、電導度はかなり高い、という特徴を持ち、a-Si太陽電池のp層やn層に適した材料であるが、電子や正孔が動きやすい分だけその再結合も多く、単独の半導体として、或いは光によって電子-正孔対を生成する主要部分として用いるには難がある。しかし、a-Siとの比較という意味でμc-Siの電極特性を調べてみる価値はあると思われるので、今回、a-Siを作製したものと同じi装置を用いてμc-Si膜を作製し、その電極としての機能を研究した。1),2)
 表Aに作製条件を示す。表Iと比較してSiH4の分圧が低く、ラジオ波の出力が高いのがわかる。


表A μc-Si薄膜作製条件

原料ガス SiH4(10%)/H2
   + H2(100%)
ガス流量 21(SiH4/H2) + 49(H2) mL(STP)/min
反応容器内圧力 0.9 Torr
基板 ステンレス鋼
(表面粗さ10nm, 鏡面仕上げ)
基板温度 225 ℃
電極-基板間距離 10 cm
ラジオ波周波数 13.56 MHz
ラジオ波出力 200 W
膜生成速度 0.25 nm/sec


X線回折を測定してみると、a-Siでは全くピークが見られないのに対し、μc-Siでは、結晶シリコンの(111)面からの反射を示すピーク(2θ=28.44°)と、(220)面からの反射を示すピーク(2θ=47.30°)が、ごくわずかであるが観測できた(X線はCu Kα線 1.5405Å、1°/min でscan)。
 a-Siの場合と同様にしてμc-Si電極の電流-電位曲線を測定した。結果を図Rに示す。a-Siの場合と比べると、電流が1桁大きいこと、及びフラットバンド電位以前の漏れ電流が多いことが特徴として挙げられる。また、光電流はほとんど観測されず、開放電圧も0.1V以下である。電導度は高いが、半導体としての特性は悪い、という一般に言われている通りのことがここにも表れていることがわかる。

図R


 三種類の水溶液中における電流-電位曲線の比較を図Sに示す。漏れ電流が大きいためにUfbの傾きははっきりしないが、液によって差があるのは明らかで、やはりa-Si同様、Fermi Level Pinning が起こっているということがわかる。開放電圧の方は、値そのものが0.05〜0.1V 程度で非常に小さいので、一定であると見なすか、液によって異なると見なすかはとても判定できる状況ではない。

図S


 Fe(III/II)溶液中では、ごく小さなヒステリシスが見られる。電流そのものが非常に大きく、表面のわずかな酸化・還元では、あまり大きな変化は起こらないと思われるが、BQ溶液やHQ溶液では、そのわずかなヒステリシスさえ観測されないことから、起こっている現象はa-Siの場合と同じであると考えられる。
 以上のように、μc-Siでもa-Siと同様な現象が起こっているが、μc-Siとしての特徴のため、それらの現象は、定量的なはっきりとした形では観測しにくい、ということが言える。


参考文献

1)田中一宜, "化学総説 No.41、無機アモルファス材料", 日本化学会 編, p.111, 学会出版センター (1983)
2)Y.Uchida, T.Ichimura, M.Ueno, H.Haruki, Jpn. J. Appl. Phys., 21, L586 (1982)



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