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● ゼオライトの話 ●
ゼオライトって何?
ゼオライト(Zeolite)とは、ギリシャ語で沸騰(Zeo)する石(lite)という意味で、和名を沸石と言い、加熱するとブクブクと泡を出して沸騰するように見えることから名付けられました。蒸留の時に液が突沸しないようにするために入れる陶器のかけらやガラス細管を沸騰石、あるいは沸石と呼びますが、これとは別のものです(沸騰石としてゼオライトを使うこともできますけど)。主にシリコンとアルミと酸素からなる、分子レベルの微細な孔を持った結晶性化合物で、この孔に吸着された多量のガスや水が加熱時に放出されるために沸騰しているように見えるのです。天然には、火山灰などが何百万年という長い年月をかけて結晶化して生じるもので、条件によって様々な結晶形があり、40種類ぐらい知られています。
ゼオライトは人工的に合成することもできます。これには何百万年もかかりません。普通は原料のケイ酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムを水と共に耐圧容器に密閉し加熱する、いわゆる水熱合成で作られますが、その他に天然の酸化物を改変してゼオライト化する方法もあるようです。また、合成の際に適当な有機物を鋳型として混ぜておくと、それを含んだ形で結晶化するので、後で鋳型の有機物を焼き飛ばすことで、天然にはない、特殊な形のゼオライトも作られています。
ゼオライトの構造
ゼオライトの結晶は、幾何学的な非常に面白い形をしています。その骨組みは、図1のようなケイ素(Si)とアルミニウム(Al)と酸素(O)の網目からできています。
図1 ゼオライトの基本構造
これが色々な形に組み合わさって、様々なゼオライトを形成します。例えば、代表的なA型ゼオライト、Y型ゼオライトは図2のような構造をしています(左がA型、右がY型。図の頂点の位置にSiやAl、辺の中心にOがあります)。
図2 代表的なゼオライトの骨格
この絵はどこかで見られた方も多いでしょう。基本になっているのはサッカーボール状の部分ですが、これはよく見ると、正八面体の6つの角を切り落とした形をしています(サッカーボールは正二十面体の角を落とした形ですよね)。この角落とし八面体(ソーダライトケージと呼ばれます)を、元々角があった正方形の部分でお互いにつなぐとA型に、元々八面体の面であった六角形の部分でお互いにつなぐとY型になるのです。いずれも複数のソーダライトケージで囲まれた空洞と、その空洞どうしをつなぐ通路を持っていることがわかります。その他にも様々なタイプのゼオライトがあり、例えば、
卒業論文に出てくるモルデナイトは真っ直ぐ伸びた孔を持ちますし、触媒として有名なZSM-5というゼオライトは、真っ直ぐな孔と、それと垂直に交わるジグザグ状の孔を持っています。これらの孔の大きさは様々ですが、直径はおよそ0.4nm〜1.3nmぐらいです。酸素や窒素などの簡単な2原子分子やメタノール分子などの大きさが約0.4nm、ベンゼン環が0.5〜0.6nm程度ですから、これらの分子1〜2個がやっと入れる程度の大きさです。
ゼオライトの骨格図では、普通は図2のように、ケイ素とアルミニウムの位置しか示しませんが、実際に孔の壁を形作っているのは酸素です。つまりゼオライトの細孔は、酸素で囲まれた空洞なわけです。そこで、酸素に見立てたボールを机の上に並べて、孔を作ってみましょう(図3)。
図3 ボールで作る細孔模型
まずボール6個を輪に並べてみます。すると、まん中には、同じ大きさのボール1個がようやく入れる空間しかありません。先ほどのY型ゼオライトでソーダライトケージをつなぐ六角柱の部分はこれに近い状態ですから、他の分子が通過するのはほとんど不可能です。次にボールを8個に増やしてみましょう。これはA型ゼオライトの空洞の入口の大きさに相当します。ボール1個は楽に通れますが、ボールが2個セットになると、横向きではギリギリです。ですから、ボール1個に小さなコブが2個付いたような水の分子ならば簡単に通れますが、酸素や窒素などの2原子分子のガスは通るのに苦労するということになります。逆にうまく設計してやれば、わずかに大きさの違う2原子分子をふるい分けすることも可能になります。それでは、ボールをさらに増やして12個にしてみましょう。これはY型ゼオライトの空洞の入口や、モルデナイトの細孔の大きさに近いものです。今度は2原子分子も楽に通れることがわかりますね。ゼオライトの細孔の大きさは、およそこんな感じです。
ゼオライトは正イオンを持っている
ゼオライトの骨格を作る成分の一つであるSiは4価ですから、2価の負イオンである酸素とはSiO2という組成でちょうど電荷のバランスがとれます。ところが、もう一つの成分であるAlは3価ですから、AlがSiの代わりに骨格に入ると,正の電荷が1個不足してしまいます。これを埋め合わせるために、ゼオライトにはNaやK、Caなどの正イオンが含まれており,これらのイオンの数は、当然、Alの比率が高くなるほど多くなります。SiとAlの比率はゼオライトの種類によって違い、A型では1:1、Y型では2:1〜3:1、モルデナイトでは5:1ぐらいですから、A型ゼオライトではこれらの正イオンの数が多く,モルデナイトでは比較的少ないことになります。
正イオンは、細孔の内壁から少し顔を出すような位置にはめ込まれているのが普通です。A型ゼオライトでは、8個のソーダライトケージで囲まれた空洞どうしをつなぐ通路の部分に、その通路を少し狭めるような形で入っています。そのため、ここにどのような種類のイオンが入るかで、実質的な通路の大きさが変わってくるのです。例えばNaイオンが入ると、実質的な直径が0.4nmになり、Caイオンが入ると0.5nmになります。このような決まった大きさの孔を持ったゼオライトを使うと、分子をその大きさによって篩い分けすることができます。これがよく知られたモレキュラーシーブです。先ほどのNa-A型ゼオライトがモレキュラーシーブ4A、Ca-A型ゼオライトがモレキュラーシーブ5Aとなります。
ゼオライトは何に使えるか
このようなゼオライトは、どのような目的に使われるのでしょうか? まず1番の用途は吸着剤でしょう。内部の空洞、細孔は非常に大きな表面積を持っていますから、多量の物質を吸着することができます(ゼオライトの場合,外側表面への吸着と違い、内部の細孔の表面への吸着ですから、「吸着」と「吸収」の間を取って「収着」と呼ばれることもあります。英語では、「adsorption」(吸着)と「absorption」(吸収)の両方に共通な部分を取って「sorption」(収着)と言います。この稿ではめんどうなので吸着で統一します)。その吸着量はどのくらいかというと、だいたいゼオライト1gで、常温常圧換算で数十ccのガスを取り込むことができます。しかも吸着力が強いので、同じように吸着剤として用いられる活性炭やシリカゲルと比べて、高温、低圧といった吸着に不利な条件下でもよく吸着するという特徴を持っています。また、単に吸着するだけでなく、先ほど出てきた孔の大きさによる篩い分け効果で、例えば窒素は吸着するけれども酸素は吸着しない、とか、水を含んだ有機溶媒の中から水だけを吸着する、という使い方もできます。このような吸着能力を利用して、不純物を取り除いたり、水や土壌から有害物質を除去する、などの用途に使われています。変わったところでは、洗剤の中にビルダーとして添加されている場合があります。ビルダーというのは洗剤の働きを助ける補助剤のことで、普通はリン酸系の化合物が使われますが、水質汚染の問題から、これに代わってゼオライトが使われる場合があるのです。ゼオライトが、洗剤の泡立ちを妨げる余分なイオンなどを効率的に吸着してくれるからです。
2番目の用途は、いろいろな化学反応を助ける触媒です。固体の表面というのは様々な化学反応を助ける働きがありますが、ゼオライトではその孔だらけの構造から、非常に広い面積の表面を持っています。しかも、反応させたい物質は、先ほどの吸着の効果で狭い空間に閉じ込められますので、ますます反応しやすくなるのです。
3番目はイオン交換です。ゼオライトに含まれる正イオンは、別のイオンに簡単に交換することができますので、イオン交換樹脂と同じような使い方が可能です。しかも、樹脂には不向きな高温などの条件でも使用することができます。
ゼオライトの吸着力が強いのはなぜか
吸着というのは表面で起こる現象ですから、表面積が大きいほど吸着能力が高いのは当然です。しかし、それだけではありません。ゼオライトは吸着力、つまり分子を引き付ける力そのものが強いのです。それはなぜでしょうか?
理由は大きく2つあります。一つは、細孔の大きさです。前にも述べたように、ゼオライトの細孔は普通の分子1、2個がやっと通れるぐらいの大きさですが、これがミソです。気体や液体中の分子が固体の表面に吸着するのは、固体表面の方がエネルギーが低い、くだけて言えば居心地がいいからです。そこで反対側にも固体表面があったらどうでしょうか。両方の表面に同時にくっついていられるのですから、もっと居心地がいいでしょう。さらに、周りをぐるりと壁に取り囲まれたら・・・、もう居心地がよすぎて出てこなくなってしまいます。これが細孔への吸着現象です。図4は、細孔の直径が吸着分子に比べてずっと大きい場合と、少しだけ大きい場合と、分子の大きさギリギリの場合のエネルギーを模式的に示したもので、吸着分子の居心地のよさが井戸の深さで示されています。このように、穴の直径がぴったりの大きさになるほど、吸着力は強くなるのです。(ここでの井戸の深さは孔の深さではなく、エネルギー値であることに注意してください)
図4 細孔中の吸着分子のエネルギー
2つ目の理由は、先ほど出てきた正イオンの存在です。正イオンの周りは電気的な力が強く働きますので、負の電荷を持った物質や、電気的に偏りのある(分極といいます)分子は強く吸着されます。また、元々分極していない分子でも、正イオンの影響で無理やりに分極させられて、やはり吸着されるようになります(ちょうど、元々磁力を持っていない鉄が磁石によって吸い寄せられるのと同じようなものです)。正イオンが作る電気的な影響と吸着との関係はいろいろと複雑ですから、また稿を改めて「
吸着の話」や「
静電場の話」で説明することにして、ゼオライトの話はこれでおしまいです。
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