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● インピーダンスの話 ●


直流と交流、どっちが簡単?

 電気回路を扱う場合、直流回路と交流回路でどちらが簡単でしょう? 直流回路は小学校で習いますが、交流は中学校以上でないと出てきませんから、直流の方が簡単・・・でしょうか。確かに、電池と豆電球(あるいは抵抗)だけの回路ならば、直流の方がわかりやすそうです。しかし現実には、抵抗だけの回路ばかりではありません。もう一つの代表格、コンデンサーが入ってくると状況は一変します。
 交流では、コンデンサーが入ろうが入るまいが、同じパターンを規則正しく繰り返すだけなので、現象は非常に単純です。計算式には虚数の指数が入ってくるので一見難しそうですが、指数関数の微積分は簡単なので、慣れてしまえばどうってことはありません。本当です。ところが直流の場合、コンデンサーを含む回路では電圧も電流も時々刻々変化するため、かなりややこしい積分をたくさんしなければ解析できず、結構大変なのです。回路がちょっとでも複雑になると、もう手におえません。ですから私の実感としては、「回路が複雑になればなるほど、交流の方が簡単」というのが結論です。


交流の主役 インピーダンス

 交流回路では、インピーダンスというものが頻繁に登場します。これは直流回路では抵抗に相当するもので、実数部と虚数部とからなる複素数です。と聞くと、「もうヤメた」となる人も多いでしょう。でも、複素数を使うのは数学的な処理が簡単になるからであって、上にも書いたように、慣れてしまえば非常に便利なものですから、ぜひ嫌がらずに挑戦してみてください。参考書はたくさん出ています。
 ただし、このサイトでは数式は一切使わない約束ですから、数式なしでインピーダンスの説明を試みてみます。けっこう無謀だとは思いますが、なんとかやってみましょう。
 インピーダンスの利用価値は、普通の回路の解析だけにとどまりません。いろいろな材料の電気的な性質を調べる上で欠かせないものです。例えば、新しいプラスティックやセラミックスを作ったとしましょう。これに電極をつけて性質を調べるとしても、直流では、せいぜい電気を通すか通さないか、程度のことしかわかりません。電気をよく通す材料ならば抵抗値が得られるでしょうが、電気をほとんど通さない材料だと、「導電性なし」で終わりです。ところが交流を使うと、電場によってプラスとマイナスが分かれる性質や電波に対する応答などもわかるのです。それを調べるのに使われるのがインピーダンス解析であり、「インピーダンスを調べること」=「材料の電気的性質を調べること」、であると言ってもよいのです。


抵抗と容量はよく似ている?

 直流回路では、抵抗に一定の電圧をかけると、図1(a)のように一定の電流が流れ、また直線的に増加する電圧をかければ、当然電流も図1(b)のように直線的に増加します。よく知られたオームの法則ですね。これに対して容量(コンデンサーのことですが、回路の要素としては容量と呼びます)に一定の電圧をかけると、図1(c)のように初めはどっと電流が流れますが(実際には電子は容量を突き抜けて流れているわけではなく、容量の一方の電極に電子が溜まり、代わりに同じ量の電子がもう一方の電極から流れ出しています)、容量に電気が溜まってくると電流はしだいに減少し、ついには外からかけた電圧と容量に溜まった電圧とが等しくなって、電流が流れなくなってしまいます。なお、この図では電流がゆっくり減少するように見えますが、現実的な大きさのコンデンサーをつないだ場合ですと、ほとんど一瞬で電流はゼロになります。例えば、容量が1μF(普通の電子回路に使われるコンデンサーの大きさです)、回路全体の抵抗が0.1Ωの場合、100万分の1秒で電流は1万分の1以下になってしまいます。「容量は直流電流を通さない」と言ってしまってもよいぐらいです。しかし直線的に増加する電圧をかけた場合には、電気がどんどん蓄えられて行きますから、図1(d)のように常に一定の電流が流れます。このように直流回路では抵抗はあくまでも抵抗であり、容量はあくまでも容量で、その振舞いも全く違っています。

図1

図1 直流回路の抵抗と容量の振舞い


 ところが交流回路では、抵抗も容量も、さらにはコイルも、そっくりな振舞いを見せるのです。とりあえず、話を抵抗と容量に絞りましょう。抵抗に交流電圧をかける場合、図2(a)のように、電圧に比例して、電圧変化と同じ波形の電流が流れます。値は時間と共に変化していますが、一瞬一瞬を見ると、電圧と電流の間には直流の場合と同じようにオームの法則が成り立ちます。一方、容量は、電圧が上がって行くうちは電流が流れ込みますが、電圧の上昇が頭打ちになってくると電流は小さくなり、電圧の増加が止まると電流もゼロになります。そして、電圧が減少し始めると、今度は蓄えていた電気を吐き出しますから、逆方向に電流が流れ出します。その結果、図2(b)のような振舞いになるのです。どうです? 抵抗の振舞いとそっくりですね。違うのは、波の山の位置、谷の位置がずれているところだけです。こうなると、抵抗も容量も同じように扱える気がしてきませんか? 実際に交流回路では、抵抗と容量とをひとくくりにして、電圧と電流の関係をまとめて扱うのです。これがインピーダンスという考え方であり、図2のように抵抗と容量の振舞いが似ているからこそ可能なのです。

図2

図2 交流回路の抵抗と容量の振舞い


 抵抗と容量とをまとめて扱うと言っても、図2のように波の位置はずれていますから、一つの数字で表すことはさすがにできません。そのため、電圧と電流がずれない「抵抗的な成分」と、電圧と電流が1/4波長(山と山の間の長さの1/4)ずれた「容量的な成分」の2つの要素で表現します。ここで注意が必要なのは、「容量的な成分」と言っても、それは「インピーダンスの容量に起因する部分」という意味であり、「容量」そのもののことではありません。インピーダンスは直流回路の抵抗に相当するものですから、あくまでも電気の流れを邪魔する要素であり、その電気抵抗の中の「容量に起因する部分」という意味です。
 インピーダンスは2つの成分で表す、ということになると、「何だ、結局2つに分けるのではないか」という声が聞こえてきそうですね。ですが、もうしばらく待ってください。インピーダンスが本領を発揮するのはまだまだこれからです。焦らずに、順番に見て行きましょう。なお、これまでの話では、回路にまず電圧をかけて、それに対する電流はどうなるか、という見方をして来ました。しかし、インピーダンスは直流回路の抵抗に相当する量ですから、ある電流に対して、インピーダンスが作用すると電圧が現れる、と考えた方がわかりやすいので、今後はこちらに方向転換します。これは、割り算よりも掛け算の方がわかりやすい、というのと同じ程度のことです。


単純な回路のインピーダンス

 まず、1個の抵抗と1個の容量が直列になっている回路を考えます(図3)。この回路に交流電流を流してみます。直列ですから、抵抗と容量には全く同じ電流が流れます。その時、抵抗の両端には、図2(a)からわかるように電流と同じ波長の、位置ずれのない電圧の波が現れるはずです。一方容量の両端には、図2(b)のように、1/4波長ずれた波形が現れます。その結果、回路の両端で観測される電圧は、これらの2つの波を足し合わせたものになりますが、それは図3のように、周波数(つまり波長)が同じで、山の位置が、1/4波長までいかない程度にずれた波形になるのです(実際にモノサシを当てて調べてみれば、ちゃんと2つの波の足し合わせになっていることがわかります)。位置のずれ方は、容量的な成分の割合が大きいほど大きく、抵抗的な成分の割合が大きいほど小さくなりますから、位置ずれを調べれば、抵抗的成分と容量的成分の比率がわかります。また、2つの波を合わせた波の振幅は、元の各々の波の大きさを反映します。というわけで、2つを合わせた波の位置ずれと振幅とを測定すれば、それぞれの成分(インピーダンスの抵抗的成分と容量的成分)の値を決定することができるのです。

図3

図3 抵抗と容量の直列回路


 もうお気付きと思いますが、このような直列回路では、波の位置ずれが起きない成分は抵抗のみで決まり、1/4波長ずれる成分は容量のみで(交流の周波数も関係しますが)決まるのです。それぞれの成分が元の抵抗と容量だけに依存するならば、何もややこしいインピーダンスなどを持ち出す必要はなさそうですね。しかし、回路が並列になるとそうは行きません。
 1個の抵抗と1個の容量が並列になった回路を見てみましょう(図4)。今度は少しややこしくて、波の位置がずれない成分も、ずれる成分も、抵抗と容量の両方の影響を受けます。なぜこういうことが起こるかというと、並列の場合には全体の電流が2つの通路に分配されることになりますが、それぞれに分配される電流の大きさ(分配の比率)が相手方の影響を受けて変化するからです。もっと具体的に言えば、直列回路では外から流した電流がそのまま抵抗にも容量にも流れますが、並列回路では、例えば抵抗が大きくなると、それだけ容量側に分配される電流が増すので、それに伴ってインピーダンスの容量的成分の比重も増すのです。

図4

図4 抵抗と容量の並列回路


 観測される電流と電圧との関係は直列の場合と同様で、波長は同じで、位置が(1/4波長以下)ずれたものになりますから、同じやり方でインピーダンスの抵抗的な成分と容量的な成分を求めることができます。これは、別の見方をすれば、実際は並列である回路を強引に直列であるとみなして解析するようなものです。ですから、ここで求められた抵抗的成分は元の回路の抵抗ではなく、回路を直列とみなした場合の抵抗であり、容量的成分も元の回路の容量のみによるものではありません。しかも両方とも周波数によって変化します。これでは訳がわからなくなりそうです。しかし心配は要りません。周波数さえはっきりしていれば、インピーダンスの抵抗的成分と容量的成分を表す式はわかっていますから、連立方程式を解く要領で、ちゃんと元の(並列の)抵抗と容量を計算することができるのです。
 ただし通常は、並列回路の抵抗と容量を求めるのに、連立方程式などは使いません。では、どうするかというと、インピーダンスの2つの成分を表す式(この式には元の抵抗値と容量値と周波数が入っています)をごちゃごちゃと変形して行くと、各成分を変数とした単純な円の式になるのです。そこで、いろいろな周波数でインピーダンスの抵抗的成分と容量的成分を測定し、それぞれを横軸、縦軸にとってプロットすると、図5(a)のような半円になり、この円の直径が元の抵抗になるのです。このようにいろいろな周波数の測定値をまとめて使えば、1回1回の測定誤差もキャンセルされて、より正確に求めることができます。このようなプロットをCole-Coleプロットと呼びますが、インピーダンスや誘電率に関する内容に少しでも関わったことのある人ならば、一度は目にしていることと思います。ちなみに、先の直列回路のCole-Coleプロットをすると、図5(b)のような垂直な直線になりますので、中身のわからない回路の種類を判定することにも使えます。

図5

図5 Cole-Cole プロット




周波数の影響とは

 さて、これまでの話の中でインピーダンスが周波数によって変わる、ということに何度か触れました。これはどういうことかを少し説明しておきます。
 抵抗の場合は周波数は関係ありません。周波数が問題になるのは容量が回路に含まれている場合です。もう一度図1(d)に戻りましょう。徐々に増加する電圧を容量にかけると、容量は充電され続けるので、一定の電流が流れます。ここで、電圧の増加する割合を少なくしたらどうでしょうか。単位時間内に少ししか電圧が上がらないわけですから、蓄えられる電気量も少なく、電流は小さくなります。電圧の変化を極端に小さくしたのが直流であって、この場合は電流値はゼロです(図1(c))。逆に電圧を減少させると、今度は蓄えられていた電気が流れ出しますから、逆方向の電流が流れます。その時、電圧をゆっくり下げれば、電気は少しづつ流れ出し、急激に下げれば一気に流れ出します。このように、電圧の変化と電流とが比例関係になるのです。
 交流の周波数が高いということは、電圧の変化が速いということです。ですから、周波数が高いほど、容量を流れる電流は大きくなるのです。別の言い方をすれば、容量というのは高い周波数の電流はどんどん流しますが、周波数が低くなると、電流を通しにくくなるのです。
 この観点で、図5のCole-Coleプロットをもう一度見てみましょう。並列回路の場合、周波数が高いうちは、容量はほとんど素通しで電流を通しますから、抵抗側にはほとんど電流は流れず、大部分が容量の方を通ります。そのため、インピーダンスの抵抗的成分は外からはほとんど見えません。また容量的成分の方も、容量がほとんど電気の流れを邪魔しませんから、大きな値にはなりません。結果として、どちらの成分も小さく、Cole-Coleプロットは左下の原点近くに来ます。周波数が低くなって来ると、容量が少しづつ電気の流れを邪魔するようになり、それに伴って抵抗側の回路にも電流が流れ始めて、抵抗の影響も見えるようになって来ます。その結果、両成分とも大きくなり、Cole-Coleプロットは中央付近に来るようになります。さらに周波数が下がると、容量は完全に電流をブロックしてしまいますから、電流は全て抵抗側に回ります。こうなると、回路は抵抗だけの場合と同じですから、インピーダンスの容量的成分はゼロ、抵抗的成分は抵抗の値そのものとなるわけです。
 直列回路の場合は、外から流した電流は周波数に関係なく抵抗にも容量にも流れますから、抵抗の状態はいつも同じで、インピーダンスの抵抗的成分は一定になります。容量の方は周波数が低くなるほど電流を邪魔しますから、インピーダンスの容量的成分は周波数が下がるに従って大きくなり、その結果、Cole-Coleプロットは下から上に垂直に立ち上がるのです。


インピーダンス測定の実際

 これまで、単純な回路のインピーダンスを見て来ました。このような単純な回路では、わざわざインピーダンスを持ち出さなくても、回路の性質は一目でわかります。しかし、もっと複雑な回路になると、回路構成を見ただけでは、どういう信号を入れたらどのように応答するかがすぐには判断できません。そこで、回路全体をひっくるめたインピーダンスが役立つのです。図3や図4では回路の成分は2つしかなく、インピーダンスの要素も2つですから、ありがた味が薄かったのですが、5個も10個も要素がある回路の性質を、たった2つの数値で表現できれば楽ですね。一例として、少し複雑な回路のインピーダンスとCole-Coleプロットを図6に示しておきました。これらは全て計算で求めたものですが、初めに書いたように、交流回路ではこの程度の計算はそれほど難しいものではないのです(直流の計算はやりたくないですが)。

図6

図6 ちょっと複雑な回路のインピーダンス


 インピーダンスの実際の測定をするのに、実験室では図7のようなインピーダンス・ブリッジを使うことが多いでしょう。抵抗の測定をするのにホイートストン・ブリッジを使ったことのある人も多いと思いますが、それのインピーダンスバージョンで、ホイートストン・ブリッジでは抵抗だけが配置されていたところに容量もつなげてあります。図のZxに測定試料をつなぎ、Zvの抵抗と容量を調節します。ブリッジ回路の4つの部分のインピーダンスがバランスすると、真中の検流計の針が振れなくなりますから、その時のZvの状態から、Zxのインピーダンスの各成分を求めることができます。

図7

図7 インピーダンス・ブリッジ


 ただ最近では、交流に対する波形の応答を直接測定して、先に書いたように波の振幅と位置ずれ情報から直接にインピーダンスを求められる装置が多く出回っています。大抵の場合、測定だけでなく、Cole-Coleプロットを描いたり、そこから未知の回路構成を予測したりする機能も付いているので、中身を知らなくても使えてしまいます。


いろいろな材料のインピーダンス

 ところで、図6のような電気回路であれば、計算だけで特性が求められますが、例えばセラミックス材料などの電気特性は、どのように考えたらよいでしょうか。金属にしろ、プラスティックやセラミックスにしろ、大抵の材料は、電気を流す導体の性質と、電気を流さない絶縁体の性質を併せ持っています。金属では導体の性質が際立っており、ガラスなどでは絶縁体の性質が際立っているだけです。そしてこの両方の性質は、その材料全体に一様に広がっていますから、電気回路に置き換えると、図4のような抵抗と容量の並列状態と考えることができるのです(電気を流さない絶縁体は、電気を蓄える誘電体と考えることができるので、容量で表すことができます)。そこで、性質を調べようとする材料に電極を付けてインピーダンスを測定すれば、その材料の抵抗と容量を知ることができます。
 電気回路の場合には、交流の周波数を変えても、元の抵抗や容量の値は変化しません。それらが外部に示すインピーダンスが変わるだけです。ところが現実の材料では、インピーダンスの元になる抵抗や容量、特に容量の値そのものが変化することがあるので注意が必要です。これは、主に材料の中でプラスとマイナスの電荷が分かれる「分極」によります。例えば材料の中に、ある程度自由に動けるイオンがある場合、低い周波数ではこのイオンが右に左にと動いて、容量の値を大きくすることに貢献するのですが、周波数が高くなると、プラス・マイナスの切り換えが速すぎてイオンの動きがついて行けず、その分だけ容量が小さくなるのです。また、さらに周波数が大きくなると、プラスとマイナスの両方の部分を持った分子が回転するのも間に合わなくなったりして、どんどん容量は小さくなって行きます。これは、図4のような回路で言えば、容量そのものを小さなものに取り替えることに相当しますから、普通に周波数によってインピーダンスが変化する現象とは全く別のものです。
 もう一つ、インピーダンス計測の例を挙げましょう。それは、溶液の系です。電解質の水溶液に電極を入れて直流電圧をかけるとどうなるでしょうか。電圧が低いうちは電流は流れませんが、電圧を高くすると電気分解が起こって、例えば酸素と水素が電極上でブクブクと発生しますね(「電気分解の話」参照)。つまり、何らかの化学反応が起こらないと、直流電流は流れません。これでは測定対象が壊れてしまいます。しかし交流をかけた場合には、水溶液中の成分が細かく振動するだけで電流が流れますから、ごく低い電圧で、測定対象を乱すことなく測定ができます。

図8

図8 溶液系のインピーダンス解析


 実際の測定例を図8に示します。このケースでは、単純な抵抗と容量の並列回路ではなく、図に示したように少々複雑な形になります。電極間に挟まれた溶液部分は、コンデンサーとしての容量が小さいので、高い周波数の時しか見えません。周波数が少し低くなると、全く電気を通さなくなってしまいます。一方、電極表面と溶液との界面は、極板間が1nm以下の、非常に容量の大きなコンデンサーになっているので、高い周波数では全くの筒抜け状態で、周波数が低くなって来てようやく姿を現します。その結果、Cole-Coleプロットには、周波数によって分かれた2個の半円が現れるのです。
 もう少し詳しく見てみましょう。まず図のA点は、最も周波数が高い状態です。ここでは、すべての容量は電気を素通ししますから、容量を含む部分は全くの短絡状態となり、回路の抵抗(配線や接点の抵抗です)だけが見えています。これに続く左の半円の部分(B点など)は電極間の溶液部分のインピーダンスを表します。大きな容量を持つ電極/溶液界面は、この領域ではまだ短絡状態ですから、溶液部分だけが見えているのです。さらに周波数を下げると、2つの半円の接点(C点)に来ます。この周波数になると、溶液部分の容量は完全に電流をブロックしていますので、溶液部分に関しては抵抗だけが見えます。つまり、単純に回路の抵抗と溶液部分の抵抗が直列につながった状態ですから、これらを合わせたものがインピーダンスの抵抗的成分として現れているわけです。ここからさらに周波数を下げて行くと、今度は電極/溶液界面の容量が見えて来ます(D点など)。その結果、2つ目の半円が現れるのです。2つ目の半円が終わるE点では、電極/溶液界面の容量も、もはや電気を通すことができません。そのため、回路は単に3つの抵抗がつながっただけのものになってしまいます。このように、インピーダンス測定によって、溶液だけでなく、電極と溶液の界面に関する情報も、しっかり区別した形で捕まえることができるのです。
 先ほどは触れませんでしたが、溶液だけでなく、固体材料でも同じようなことが起こる場合があります。例えば、粉末を焼き固めたような材料では、その粉末粒子の内部と、粒子間の界面という異なる容量の部分が混在しています。また、一つの材料の中に別の材料の粒子が埋め込まれている場合なども、同じ材料の内部と、異なる材料との界面とでは容量が違いますから、やはり図8のような複数の半円が出てくることが多いのです。
 実際の測定では図8のようにきれいな形にならず、ゆがんだ形になることの方が多いのですが、それでもインピーダンス解析から得られる情報は非常に多く、いろいろな材料や溶液系の電気的な性質を調べるのに、なくてはならない技術なのです。



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